小説

『生きてさえいれば』感想|ひとはなぜ生きる意欲が湧いてくるのか

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僕は明日、死のうと決めた。

小坂流加さんの『生きてさえいれば』を読みましたので、私の感じた魅力をご紹介します。

【書籍情報】
題名 :生きてさえいれば
著者 :小坂流加
出版 :文芸社文庫NEO
発売日:2018/12/13
本の長さ:293ページ(Kindle換算)

おすすめ度:★★★★☆
読みやすさ:★★★☆☆

読了:2024/05/10
媒体:PrimeReading

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本書との出会い:著者さまの別作品を読んだので

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そこで、「他作も読んでみたい!」と選んだ作品が『生きてさえいれば』になります。

 

あらすじ

「生きていなくちゃ、悲しみや絶望は克服できないのよ」――大好きな叔母・春桜(はるか)が宛名も書かず大切に手元に置いている手紙を見つけた甥の千景(ちかげ)。病室を出られない春桜に代わり、千景がひとり届けることで春桜の青春の日々を知る。春桜の想い人(秋葉)との淡く苦い想い出とは? 多くの障害があった春桜と彼の恋愛の行方と、その結末は?

Amazon商品ページより

 

私が感じた『生きてさえいれば』の魅力

著者さまが逝去後に見つかった作品

本作の著者の小坂流加さんは、難病を患っておられ、前作の『余命10年』の文庫版の編集が終わった直後に病状が悪化し、2017年2月に逝去されました。

本作は、その半年後、著者さまが使っていたパソコンに残っていた原稿をご家族が発見され、文芸社編集部にて確認の結果、出版されることになったそうです。

編集部から「他にも原稿がありましたら教えてください」とお願いしていたところ、2017年秋ごろ、ご家族から他にも原稿があったとお知らせいただきました。編集部で拝見しましたら、『余命10年』とは異なる世界を描いたすばらしい原稿がありましたので、出版させていただくことにしました。

出典:生きてさえいれば (p.289)

「著者さまが原稿を残していなければ」「もしご家族が遺稿を発見していなければ」「もし出版社の担当が↑のようなお願いをしていなければ」……等。

いろいろな「たられば」の後に、本作と出会えたと思うだけで胸が暖かくなります。

丁寧な描写に惹き込まれる

本作は、小学校6年生の男の子・千景(ちかげ)が語り部となる「現代」と、千景の叔母・春桜(はるか)の想い人・秋葉(あきは)が語り部となる「7年前」で構成されています。

「現代」では、ベッドから体を起こすことすら容易ではない春桜の様子や、それを見守る千景を中心に、「生きること」が描かれています。

一方、「7年前」では、秋葉と春桜の出会いや、大学時代の思い出など「人を好きになること」が描かれています。

キャラクターが丁寧に掘り下げられているので、抱えた事情や喜怒哀楽、そこからあふれる想いが違和感なく流れ込んできて、物語の世界に惹き込まれます。

(惹き込まれ過ぎて苦しくなるシーンや、ちょっと背筋が寒くなるキャラクターもいましたが……)

考えさせられるストーリー

はっきり言うと、展開としては王道で、納得感のあるストーリーです。

ただ、おそらく闘病中に執筆されたであろう小坂流加さんの境遇や、『余命10年』に描かれていることを知ってから本作を読むと、『生きてさえいれば』のタイトルだけで胸が締め付けられます。

また、それぞれの登場人物が抱えている「痛み」や、あらすじで記載されていた「生きていなくちゃ、悲しみや絶望は克服できないのよ」というセリフの意味を知ると、「生きること」と「人を好きになること」について、めちゃくちゃ考えさせられます。

特に最後の4行については、小坂流加さんがどんな思いで綴ったのか、すこし飲み込むのに時間がかかりそうな、素敵で切ない文章でした。

 

生きる意欲が湧いてくる

『余命10年』と『生きてさえいれば』の両方に共通するのは、読んだあとに「頑張って生きていこう」と思えること。

あえて方向性の違いを紹介するなら、『余命10年』は「後悔しないように生き抜こう!」とカンフル剤になるような読了感なのに対して、『生きてさえいれば』は「生きてさえいればいろんな出会いや感動があるよ」と優しく包んでくれるような読了感でした。

もっと小坂流加さんの作品をたくさん読めたらと思うと、本当に残念です。心からご冥福をお祈りします